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1 告白は突然に
『お疲れさまでーす』
「お疲れさま」
『山内さん、この案件は明日に持ち越してもいいですか?』
「いいよ、残りは私がやっておくから。お疲れさま」
―――――金曜日の夕方。
次々と定時に仲間が上がっていくなか、さぁ、これからだ…とパソコン画面に向きなおった。
【山内 莉乃】
アラサー、ルックスそこそこ、恋人なし、仕事一筋。
ほぼ毎日残業だけど、ブラック企業なわけじゃない。
別に仕事は好きじゃないし、夢だ目標だ!とやる気に満ち満ちているはずもない。
単にこれは、1年前に彼氏にフラれて以来、仕事くらいしかする事がなくなった結果なわけで。
――――『意外だな…結婚とか…』
べつに結婚を迫ったわけじゃない。
ただちょっと雑誌に載っていたウエディングドレスを見て「かわいいなぁ…」と呟いた直後に言われた台詞がこれ。
その後、彼は電光石火のごとく姿を消した。
そういえば、同期の中條君には気付かれたから、全部話したところ、酷い男だな!と罵り、私を慰めてくれたっけ…。
でも、別れたことは意外と平気だったし、一人の生活も悪くない。
ただ一つショックだったのは、彼にとって私は重かったのかな…と思ったことだけで。
社会人になったし、30歳に近づく女だし。
結婚願望を持つのは罪でもなんでもないと思う。一般的な感情だと思う。
(ホントにわざとじゃなかったけど)雑誌を見て、ちょっと思わせぶりなこと言ったって別にいいと思う。私、そんなに悪いことしてないと思う。
だけど、あの後、誰かと電話をする彼の声――――。
――――『あいつって、一生一緒にいたいと思える奴ではないんだよな…』
どうしたって忘れられない。
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