涙すらも

17/18
前へ
/18ページ
次へ
 突如として君がこちらを振り向く。まさか――。何かの奇跡に一瞬期待するものの、視線が合わない。やはり見えてはいないらしい。それでも、を感じ取ってくれたようだ。  恐る恐る、君は僕の名を口にする。  ああ……。  切なさがぎゅっと胸を締め付ける。ずっと聞きたかった彼女の声。あの時、少しでも君に弱音を吐ける強さが僕にあったなら、何かが変わっていたのだろうか。  でも、もう取り返しがつかないんだ。  透明人間になった僕は、君の声に応えられない。  死者はただ口をつぐむのみ。  だから、伝えたい全部は、この数秒に託すんだ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加