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花畑の自由が目を覚ます。
すべての風船花が解き放たれる。
春の陽気に包まれた緑の草原で、数え切れない紅色の玉が青空へと浮上してゆく。
高く、高く、遠く、遠く。
一方的な謝罪だけでは、君は前を向けない。
だから、この奇跡で想いのすべてを表現しよう。
僕との思い出に縛られず、君の思い描く未来に向かって歩いていってほしい。
世界は剣呑だ。心の痛みを抱えて君は生きている。きっとこれからも棘が刺さり、涙を流すこともあるだろう。もしかしたら、今よりもさらに苦しいことがあるかもしれない。死んだ方が楽なのかもしれない。
それでも、どうか生きてください。
君だけは幸せになってほしいんだ。
追い詰められると心が腐り、終わりのない闇に囚われてしまう。
世界の美しさが、空が見えなくなってしまった時は、この風船花の空渡りを思い出してほしい。
君の未来への祝砲を。
花々を見上げる君の瞳には、艶やかな潤いの中に七色の欠片が宿っている。自分では見えないだろうけれど、あなたはその目に、世界一美しい輝きを持っているんだ。
だから、きっと大丈夫。
浮上する風船花が、彼女の頬を撫でる。
もう、彼女の目から涙は零れなかった。
それを確認すると、ふっと心が楽になった。
張り詰めていたものが消え、意識が溶けてゆく。
僕はやがて、風になるのだ。
愛しいあなたのこれからに、幸あらんことを。
ようやく笑えた僕は、彼女の姿を瞼の裏に仕舞う。
希望に溢れた風が巻き起こり、すべてを洗い流していった。
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