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頂上まで辿り着くと、青い香りが僕を出迎える。
階段の果てには、草原が広がっていた。夏を先取りした藍を受ける若草色の輝きが美しい。その少し先には紅色の花が密集していた。これだ、と思った。僕はこれを探しにきたのだ。
近寄ると、その花はホオズキのような袋状であることが分かった。珍しい形の花だ。よく見ようとしゃがんだその瞬間、それは突如として茎から外れ、ふわり空へと浮かんでいった。
驚いて天を見上げると、他にもちらちらと赤い風船が飛んでゆく。
宙を舞う花。僕はそれに無限大の自由を垣間見た。花が地に縛られなければならないなんて、誰が決めたのだろう。
花の飛翔に目を奪われていると、香りが一層強くなった。振り向くと、無垢な笑顔を浮かべる少年がそこに立っていた。
彼はこの花について丁寧に教えてくれた。少年とは思えない博識ぶりだ。僕が花に興味を示すのが嬉しいようだった。何故ここにいるのかと聞きたいが、何だかこの秘密の楽園でそれを聞くのは無粋な気がした。余計な質問はせず、僕はしばらくの間彼と時を共にした。
穏やかな静寂を堪能し、そろそろ帰ることにする。
これくらいなら詮索してもいいか、と思い、彼の名を尋ねた。
風船花。
彼はそう言い残すと、瞬きの刹那に姿を消した。
花の香りがその存在を残していた。
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