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ひどく寒い冬の日、僕は彼女に出会った。
駅のホームで立つ彼女は、途方もない傷心を感じさせた。仰向けになって死を待つ蝉のような悲壮感が滲んで見えた。僕はその姿に、しゅんと萎れた物悲しい向日葵を思い浮かべた。
あんなにも悲しそうな人を、僕は見たことがない。電車が通過するというアナウンスが流れている間も、僕の目は彼女に釘付けになっていた。
電車の音がすぐそこまで来ている。
彼女のかかとが、わずかに浮いた。
その瞬間、僕は天啓を受けた。今すぐ走れ――電流に弾かれたように僕は駆け出し、前方へと崩れゆく彼女の腕を引き寄せた。ほぼ同時に質量の塊がそこを通り過ぎていく。まさしく間一髪だった。遅れて髪を巻き上げる風の勢いが、その破壊力を僕に知らしめた。
本当に危ないところだった。遅れて鼓動が走り出す。
彼女は、ぼんやりと僕を見つめていた。僕の声すら届いていないようだ。
それは傷つき疲れた人の顔だった。それがあまりにも痛々しく、僕は腸を握り潰されるような悲しみを抱いた。どうしてこの人が、ここまで苦しまなければならないのだろう。
彼女を放っておけなかったのは、もしかしたら自己投影を兼ねていたのかもしれない。
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