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「では、タクシーでも拾って?」 「車が来ました」 「はあ」 「黒い車でした」  色なんか知るかよ。  危うく舌打ちしそうになって、ひっそりと舌先を噛んだ。一応信用の商売だ、SNSに何か書かれでもしたらマズイ。  ちらとスマホを見ると、やけに連投されている事に気付く。  いつ帰るのか急かす類だろう。気の短い奴だ。  画面をデスクに伏せ、ペン先を紙面に落とす。 「じゃあ、えーと…その車で帰った訳ですか」 「いいえ」  話が進まなくとも、キレてはならない。  こいつを処理すれば今日は終わりだと自分に言い聞かせていると、当人が喋り出した。 「その車は、こっちに向かって走ってきて…」  雑多な文字がカルテに増える。  患者はわざとらしく間を空けて、言った。 「私を、轢きました。」
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