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雨が苦手だ。
特に、あの音。窓や地面を打つのを聞くだけで気が滅入る。
去年の夏、自宅もクリニックもカーテンは全て分厚い遮音に替えたが、それでもまだ、雨音は蝕むように部屋を満たす。
このところの大雨で、元より繁盛しないクリニックには閑古鳥が鳴き、今日はとうとう全ての予約がキャンセルになった。夜間診療なんて儲からないからやめようと散々言っているのに、無理に続けるからこんな無駄が出るんだ。名ばかりの院長である僕に決定権が無いのも問題だが。
そんな調子で昨日も深夜まで暇を潰すはめになったし、今日こそさっさと閉めてしまおう。ドアを出てすぐの受付を覗くと、スタッフの宮野有里子がカルテの整頓をしていた。
「宮野さん。雨も酷くなってきたようだし、もう上がっていいよ」
「え?でも、先生…」
「予約も無いんだ、今日は早く閉めよう」
診察室に戻ると、壁掛け時計が21時を指していた。1日中カーテンを閉め切っていると、時間の感覚が狂ってくる。
帰り支度を始める前に、雨音が強くなってきた。夜には晴れると言っていたくせに、予報も当てにならない。
止むと言うから、朝だけ我慢して運転してきたのに。かと言って、車を置いて帰る訳にもいかない。
「…小降りになるのを待つか」
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