一 「憧れの人に会いたくて」10

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一 「憧れの人に会いたくて」10

 同窓会の時間は二時間、考えれば長い時間だ。私にはそんなに長く話をする相手などいない。幹事だから途中で帰るわけにも行かず、気まずい時間を集団の中で長く拘束(こうそく)されるよりはまだ良いのかもしれない。  結果的に、「まっ、いっか」だ。  私は名簿を見て、出席者と会費を確認した。  出席者の数と金額が合わなかった。  えっ? どうして? もらいわすれ。  落ち着け、落ち着け。もう一度確認した。  男子、合っている。女子、一人まだ来ていないが、今いる人数分は合っている。  はて?   もう一度名簿を眺めた。  あっ、国代先生からはもらっていない。  原因がわかってホッとした。  緊張した分、ドッと疲れが押し寄せた。  やはり、お金に関することは緊張する。  ぼんやり教室へと目を向けた。  楽しげな交流が伝わってくる。私の居場所はポツンとして静かだ。  十メートルも離れていないのに、同じ空間の時間を過ごしているのに、真逆の世界が存在している。  でも、あの賑やかな空間に突然放り込まれても対処に困る。  ふと、ある思いが浮かんだ。  このあと、真田さんと話ができる時間がある。伝えたいことをちゃんと整理しときゃなきゃ、電話みたいにしどろもどろになって、せっかくの機会と時間を無駄にしてしまう。そんなことになれば、二度と真田さんとは話ができなくなる。それだけは避けたい。  私は高校での出来事を紐解(ひもとく)くことにした。いやいや、ミステリーや探偵の推理じゃないんだから、思い返していた。そこに相談したいことや話したいことがあるからだ。  私の思いが、間違っているのか、変なのか、彼女の考えを、どうしても意見を聞きたい。  私は、自分史、中学卒業後の出来事について整理し始めた。
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