二 「同級生とは距離がある」1

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二 「同級生とは距離がある」1

 M高に進学して、中学時代の思いを引きずることもなく、高校デビューができると私は安易(あんい)に思っていた。  しかしながら、元来、私にはコミュ力がない。その上、極度の人見知りをする。  中学時代の環境の所為(せい)だけではない。そもそも私のもつ性格が(わざわ)いしている。  高校の同級生とは普通にあいさつを交わすことならできる。  ほとんど女子だけれど。だけどそれ以上に一歩近づけていない。  コミュ力がない私には他人と打ち解けることが困難だ。  人見知りせず、初対面からコミュニケーションを上手く取れる人がうらやましい。  例えば中学からの友だち、部活が同じ、趣味が同じ、人間関係に共通点がある。  私は運動音痴だし、楽器もできないし、歌も上手じゃない。それにグループでも末端だ。  いわゆる取り柄というものがなにひとつないのだ。  (おの)ずと帰宅部に入るしかない。電車時間もあるから無理な活動はしない。  でも、中には距離感が近すぎる人もいる。  その名は、竹之内(たけのうち)未来(みき)という。  未来ちゃんは初対面から距離が近すぎた。いきなり腕を組んで話しかけたり、どこかしら身体をくっつけて会話をする。  その横には、クールで大人びた神楽(かぐら)美月(みづき)さんが姉妹のようにいつも一緒にいる。トイレも同じだ。小学校からの付き合いだという。いわゆる親友というやつだ。  二人とは高校二年のときに同じクラスになった。  二人はたまにだけど私に話しかけてくれる。  微妙に慣れた頃、私は未来ちゃんの洗礼(せんれい)を受けた。  体育の時間に着替えをしていたときだ。  ちょうど上着を脱ぎかけたとき、未来ちゃんが私の前に来て、いきなり私の胸を触った。  ひゃっ。と驚きの声を上げただけで、そのあと声が出なかった。 「この子、形が良い。弾力もあるし。制服の上からじゃわからないわ」  と顔だけを美月ちゃんに向けて報告をする。手のひらは動いている。  私の姿勢はといえば、実は両手をバンザイのように挙げていたのだ。同性だからって、「どうぞ」ではないですよ。驚きのあまり両手が挙がっただけですよ。でも、声が出ない。  私の顔が真っ赤になっていたのだろう。美月ちゃんが助け船を出してくれた。 「ダメだよ。ひなたちゃんに触っちゃ。ほら、顔が真っ赤になって恥ずかしがってんじゃん」 「でもねぇ、ひなたちゃんの胸、形が良くて、弾力が気持ちいいよ」 「だからやめなさいって、ひなたちゃんは嫌がってるの。ほら、そんなことは経験豊富な私にしなさい」  と美月ちゃんは大の字の形で身体を大きく見せた。 「はい。どうぞ」、「どっからでもかかってこいやぁ」っていう感じ。  でも、両足を肩幅に開く必要はあるのかなぁ? とあとで思った。  とりあえずその場はそれだけですんだ。  私は美月ちゃんに「ありがと」と助けてくれたお礼を言った。  美月ちゃんはニッコリと微笑んでくれた。これぞ姉御(あねご)(はだ)というやつだろう。  その日、家に帰って思い出すと、私は机にうつ伏せて赤面した。  未来ちゃんの攻撃はたまにやってくる。  私は、アイドルのような、ボクシングのような感じで両肘を曲げ、胸の前でガードをする。すると変幻(へんげん)自在(じざい)の攻撃がやってくる。胸がダメだとわかると今度はお尻を触られた。  ぞわっとする。  ひゃあ~、といつもより声が大きくなる。 「未来、だからやめなさいって」  美月ちゃんが叱ってくれた。 「でもねぇ、ひなたちゃん、お尻は小さいんだけど、シュッとして形が良いんだよね」 「報告はしなくて良いから。とにかくひなたちゃんにするのはやめなさい」 「だって、美月のお尻は丸いんだもん」 「あんたねぇ、いい加減怒るよ」 「ごめん、ごめん、もうしません」  こんな訳で、距離感の近い人は苦手だ。  未だに慣れない。慣れたくもない。できれば知り合い、顔見知り程度でとどめておきたい。
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