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一 「憧れの人に会いたくて」2
ことは数ヶ月前に遡る。
学校から家に帰ったある日の夕方、隣の喧噪の中にいる風見優太君から電話があった。
最初、覚えのない電話番号に出ようか出まいか迷ったあげく、怖いから無視することに決めた。電話は十数回で切れたが、また数分後に電話がかかってきた。
番号は同じだ。
不審な電話ではないかもしれないと思い直し、しかし不安は拭いきれず、とりあえず電話を受けることにした。
「もしもし、西内ひなたさんの電話で間違いないですか?」
ドキッとした。相手は私の名前を知っている。誰?
「はっ、はい。西内ですが」
「よう、オレオレ」
いっ! オレオレ詐欺。
私に子供はいません。まだ高校生だし、未成年だし、友だちもいません。
わっ、私は何を考えているのだ。一瞬で駆け巡る思考に動揺した。
「あれっ、西内さんの電話ではないですか?」
「いえっ、あの、西内です」
「何、警戒してんだよ。覚えてない? ほら中学三年のとき、同じクラスの風見、風見優太」
そもそも風見君とはそんなに会話などしていない。いえ、ほとんど、皆無と言って良いほど話などしたことがないのに。
それが、どうして? なぜ? 意味がわからない。
私がしばらく無言でいると、
「同級生くらい覚えとけよ。冷たいなぁ」
「そんなこと言われても、話したことないから」
「それもそうだな。まっ、以後お見知りおきを」
以後? 以後って何? 何が続くの?
「西内、なんか言えよ。ほんと、お前って中学のときからおとなしいっていうか、無口って言うか、愛想がないな」
しっ、失礼ね。なんなのよ突然電話をしてきて、その評価は。
「まっ、いいか。要件を先に言うわ。あのさ、今度、俺とお前で幹事をすることになったから」
私は腰が抜けそうになった。なっ、何の? 動揺しすぎて声もでない。
「西内、聞いてる?」
「きっ、聞いてますけど、幹事って?」
「幹事って言えば同窓会と相場が決まってるじゃないか」
「どうして?」
「ほら、来年、俺たち高校卒業するだろ。そしたら地元を離れるやつもいるじゃん。だからその前に中学の同窓会でもしようぜって話になったんだよ」
経緯は理解できた。でもどうして私が幹事なのか理解できない。
「それで、男子の幹事が俺になって、女子の幹事が西内にってなったわけ」
「そんなこと勝手に決めないでよ。そんなの困るよ私」
「困るって、ご指名だから。お前って人気あったんだな。知らなかったよ」
「指名って、誰から?」
「倉田、倉田百花から西内が良いって言われたの」
瞬時に「伝言板」、「伝書鳩」の文字が浮かんだ。
私が心の中でつけた、百花の呼び名である。
そういうことか。納得はできないけど理解はできた。
私は幹事役をさせられることに、せざるを得ないことに、内心は諦念を抱いた。
百花は椎名凜の伝達係だ。同じ商業高校へ進学したこともあり、今でも凜の思うことを伝え役にさせられているのだろう。
おそらく、面倒くさいことは西内にさせればいいということで私を指名したと容易く推測はできる。
ため息が落ちだ。抗えない。諦めるしかない。承諾。
やっと離れられたのに。
高校の位置づけを駅の流れで言うと、地元の駅から二駅目にK高があり、K高がある駅から二駅目にT高と商業高校があり、T高と商業高校がある駅からさらに二駅目に私が通学するM高があるのだ。
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