三 「WEB小説って」13

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三 「WEB小説って」13

 あのトラブルがあって数日が過ぎた。  活動の日々は以前の日常を取り戻せたようだ。  私はBさんの作品に魅了されていた。  Aさんの言うとおり、文章が上手い。私がこんなことを言うのはおこがましいが、読みやすいくて内容が頭に入りやすいという意味で。情景描写と心情描写に惹きつけられる。人物像にリアル感があり、近くにそんな人がいるような気がする。どこかで登場人物が生きているような気がするのだ。それは二人のやりとりを読んで理解できたことがある。Bさんはある圏内を舞台にした小説を書くことが多いのだが、圏外でも舞台にして小説を書いている。実際、Bさんはその場に行って来たことをAさんに明かしている。  すごい。の一言だ。  小説を書くために現地にまで行って、風景を見て、風を感じ、温度を感じ、土地の臭いを感じ、街の音も感じ、身体全身で感じることを得て、書くことに取り組む。  私にはとてもできないことだ。  リアル感が伝わる理由がわかる。  AさんはBさんの作品もさることながら、Bさんの真摯に取り組む姿勢も好きなのだろう。それに互いが交わすコメントからBさんの人柄にも惹かれているのだと思う。  二人の思いの中には深くて大きなものを感じる。その関係性が微笑ましい。観ているだけでも笑みがもれてくる。二人に出会えて良かったと感謝してしまう。  おそらく他のフォロワーさんにもそれぞれ推しのフォロワーさんがいて、そんな関係性も築き上げているに違いない。ただ付け足して言わせてもらえれば、AさんにもBさんにも他に沢山のフォロワーさんがいて、それぞれに個々の関係性を保っている。Aさんが知らないBさんの他のフォロワーさんとのつながり、Bさんが知らないAさんの他のフォロワーさんとのつながり、それはそれで尊重もしているだろうし、微笑ましく見ているのだろう。  私たちは自分のフォロワーさんと「競い合っている」、「戦っている」のではない。仲間として「支え合っている」のだ。ということが伝わってくる。  だからこそフォロワーさんの良い評価や良い結果には、自分のことのように心が躍り、うれしくもあり、喜ばしいこととして賞賛したくなるのだ。  正に、「フォローします。」・「応援しています。」なんだ。  交流があるフォロワーさんとのつながりって、とても良い。  私は日々の充実感が増していった。ワクワクしながら。  ある日、運営側から広告料の分配について説明がされた。  私たちの活動に対して希望する人は広告料の一部を分配してくれるというシステム導入のことだ。  私たちの作品に対して収益が発生するということ。  Aさんはそのシステムについてとても危惧(きぐ)していた。  わかりやすく言うと、フォロワーさんの作品の中で、芸能人など推しの写真を掲載していたり、好きな歌手の歌詞をそのまま掲載していることについて、閲覧数による再分配で収入を得た場合、著作権や肖像権などにふれることもあるので気を付けた方が良い。と伝えていた。掲載した本人の自己責任になると思うけど、おそらくフォロワーさんを守りたいというAさんの気遣いである。  私は素直に気を付けようと思った。  幸せな日々を過ごしていたときに、とんでもない事件が起きた。  十月のある日、私はいつものように時間があるときは推しのフォロワーさんを観に行く。  確かに、朝、通学する前には、Aさんは活動していた。  他の作品を読んでコメントを書き込んでいたのだ。コメントを読んだのだから間違いはない。  なのに、私が学校から帰ってきたときは、私のフォロワー数や星の数やハートマークの数も激減していた。不思議だとしか思えなかった。  そして一番ショックなのは、Aさんからいただいたコメントが全て消えていたのだ。  頭が真っ白になった。  インターネットに不具合が起きたのかな。運営側のトラブルで上手くいかないのかな。  でも他のフォロワーさんのホームには入れた。本棚に入れている作品にも入れた。今は読む余裕などなかった。  次に、検索機能を使ってAさんの筆名を入力した。  けれど、Aさんの筆名は存在しなかった。  どこにもいない。作品名も見あたらない。コメントもない。  Aさんが消えた。  Aさんの全てが、忽然(こつぜん)と消滅したのだ。  茫然自失(ぼうぜんじしつ)。  何も考えられなかった。時間だけが過ぎていく。身体はスマホを待った状態で固まっている。  全てが真っ白になった。
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