四 「私に仲間は……」1

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四 「私に仲間は……」1

 ふと気が付くと、教室内から賑やかな声が聞こえた。  時間を確かめると同窓会が始まってから三十分くらい過ぎていた。  開いたドアから教室内が見えた。  視界に成田(なりた)(つばさ)君が入った。  中学のとき、サッカー部のキャプテンをしていた。ちょっと憧れの人。初恋かもしれない。  成田君は当時から人気者で、今日も男子だけでなく女子も取り巻いて話をしているようだ。  活発で、明るく、笑顔が良い。(さわ)やか男子だ。  私としては遠くから眺めるだけで精一杯。視線を外して足下に目を向けた。  誰かが近づいて来る気配を感じた。顔を上げる間もなくその人は言った。 「まだ受付をしてくれてたの。ご苦労様」  その声は紛れもなく真田さんの声で、私はハッとして顔を上げた。  真田さんは笑っていた。労いの笑顔だ。 「もう中へ入ったら」 「今さらどんな顔をして入っていけばいいのかわからないし」 「別に悪いことしたわけじゃないのに、逆でしょ。みんなのために面倒な幹事まで引き受けてくれたのに。どうして?」  私は極度の人見知りで、元々人間関係が苦手で、誰も打ち解けられなくて、と正直に自分の弱さを打ち明けていた。 「そのわりには何度も私に連絡をしてくれたじゃない」 「あっ、あれは真田さんと話がしたいという希望もあって、この機会を逃したらもう」 「あの、責めてないから。うれしかったから。私にもそんな風に思ってくれる人がいたんだって、内心はうれしかったから」 「ほんとに」  真田さんはニッコリして頷いてくれた。それから、紙コップにジュースを入れて私の分まで持ってきてくれていた。 「じゃあ、ここで話をしましょうか。話があるって言ってたよね」  彼女は風見君が使っていた机とイスを私の机の横に並べた。 「それで、私に何を訊きたいの?」 「いくつかあるんだけど」 「そんなにあるの。時間が足りるかな。とりあえず、ひとつひとつ聞くわ。どうぞ」  私は彼女の秘密をひとつだけ知っている。中学三年になったばかりのとき、彼女は屋上へ出る階段の途中で座って、スマホを見つめながら泣いていたのだ。  それは、家で飼っていた猫が亡くなったらしい。その写真を見ながら悲しんでいたという。
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