四 「私に仲間は……」2

1/1

46人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ

四 「私に仲間は……」2

 二つ目は、トイレ事件のことだ。  椎名(しいな)(りん)のグループから良く思われていなかったことで、お昼休みに、凜のグループからトイレへ呼び出されるのを観たことがある。と打ち明けた。その後、全く関わりがなくなったことも。  真田さんはかすかに笑って説明してくれた。  確かに、凜のグループに呼び出されて、生意気でウザいとケンカを売られたらしい。  脅しのような暴言も吐いたという。  真田さんはその場でスマホを出し、録音していたことを告げ、彼女たちの顔を動画で映した。そしてスマホのボタンを押したあと、私には記事を書いている親戚がいること。もし、自分に危害があったときは、その動画が親戚に送信されること。また、家のパソコンにはあなたたちの実名入りで他の人にもしていたイジメのことを書き残していることを付け足して言ったらしい。証拠がある。一生追いかけられることになる。と脅した。それが嫌なら、お互い存在しない人として無視することを条件にしたのだ。真田さんがすごいと思ったのは、もしあなたたち以外の人に私が危害を加えられても、私はあなたたちを恨みます。一生後悔をさせてやるから。と付け加えたという。少し背筋がゾクッとした。それで凜たちのグループは無視することに決め、真田さんとの関わりを絶ったのだ。  真田さんは、半分はハッタリだと笑った。  記事を書いている親戚はいるが、ミニコミ誌で、飲食店や不要なものを無料で譲るコーナーとか子犬や子猫の飼い主捜しのコーナーやコラムを書いている人だという。まんざら嘘ではないが想像した報道関係にいるわけではない。ただ、以前は全国紙の地元(都道府県)版のページを担当していたことはあるらしい。転職でミニコミ誌で活躍しているとのことだ。  どっちなの? とツッコミを入れたくなるけど、ハッタリだけではないような気がする。実際、地方版と言えども記事を書いていたわけだし。  だから凜たちは口を(つぐ)むことにした。その後の態度が急変した理由が理解できた。  結局のところ、悪いことをする人は他人や警察に知られることが怖いのだと思った。  そのあと付け足された説明に驚いた。 「イジメ」や「悪ふざけ」という表現は、実態によっては軽すぎる表現だと。いずれ「人格・人権侵害」、「侮辱罪」、「脅迫罪」、「傷害事件」として表現されるケースも増えてくるでしょう。そして被害にあった親はイジメ関係者の親に対して、民事で損害賠償を請求するケースもでてきます。未成年の親には保護者管理責任があるから。家族や親にも迷惑をかけることになる。自分の人生も家族の人生も壊してしまうのよ。「ごめんなさい」と謝るだけでは済ませられなくなる。おそらくこれからは加害者側への追及も厳しくなっていく。書き込みや動画の証拠分析も高度になってくる。刑事罰になればなおさらだという。  真田さんがこのテーマの結論を言う。 「人のイメージが落ちるだろうと想像しての情報や噂を広める。事実かどうかの問題じゃないの。陰口、悪口、イジメというのはエスカレートして、そしてその人の人間性として身につく。感覚が麻痺して、(こと)()()し、是非、倫理観や道徳観の感性が鈍くなってしまう。簡単に言えば、いずれそんなことを無意識に繰り返す性格になってしまうということなの。他人の害にしかならない人間になってしまう。それでいいの? 私は下品だと思う」  と私の目を見て言った。真田さんの表情は真剣そのものだ。真田さんはそのまま続けた。 「自分は将来、どんな人間になりたいのか、どんな人間性でいたいのか、そういう問題だと思う」  ドキドキしてきた。緊張度が増していく。私の目が真田さんの顔に釘付けとなった。  真田さんは少し間を置いてから、一気に話し出した。 「今は、就職活動をしても、表面上の面接試験では誰も悪いことは言わないのよ。面接のマニュアルがあるから。そこで企業はプロに依頼して、その人の裏アカウントまで調べているの。どういう人間なのか、どんなことをしてるのか、社会人になれば、社会に迷惑をかけているような行為はないか。面と向き合うときだけすり抜けられればと考えている人は、『自分は知らない』と言い逃れできれば助かると勘違いしているんじゃないかしら。世間はそんなに甘くはないわ。必ずバレてしまうものなの。スマホで都合の悪いことを削除しても復元はできるし、街では防犯カメラが設置されている。いわば証拠を残しながら私たちは生きているっていうことをわかってないんじゃない。だから、バレなければ何をしても良いという考えは通用しなくなるのよ」  と詳しく説明してくれた。  なるほど、勉強になります。と思ったけど、この人、本当に高校生なのと驚きを隠せなかった。 「あくまでも私の想像と感性ですから、この話、内緒ですよ」と私に念押しをした。  どうも他の人とは議論をしたくないらしい。どう思うのかはその人次第。そしてどう生きていくのかも本人次第。どんな人間性を育てるのかは自分で決めることなんだ。  私はコックンコックンと何度も頷いた。  私がドキドキして無言でいると、真田さんが(たず)ねてきた. 「あの、私に()きたいことというのは、私へ好奇心というか、興味本位からなの?」  私はすぐさま否定した。 「じゃあ、あなたが私に相談したいというか、話したいことっていうのは?」  真田さんに問われて、私は本来の目的である話を始めた。  私が高校へ入学してからのこと。人見知りが災いして今一(いまいち)馴染(なじ)めないこと。Web小説デビューしたこと。憧れのフォロワーさんができたこと。先ほどまで回想していたエピソードをかいつまみながら話した。 「それで、その憧れのフォロワーさんとのことは?」  と真田さんに訊ねられて、その後のことを語った。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加