一 「憧れの人に会いたくて」4

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一 「憧れの人に会いたくて」4

 中学のときから学校内でもスマートフォンや携帯電話を持つことができた。部活の連絡網に使用されたり、学校の連絡網でも使用されることがあったからだ。  でも、全員が持っているわけではない。家庭の事情で持てない子もいた。高額だからという経済的なこともあれば親の教育方針もあるだろう。世間では事件に巻き込まれることもあるからだ。  だから学校の連絡網は、紙でも、プリントやお知らせという形で欠かさずに連絡された。  中学三年のクラス、三十二名中、女子は十七名。男子は十五名、女子のうちスマホを持っていないのは彼女だけ。というより持っていないと認識されていた。これは私だけが知り得た彼女の秘密だ。男子は三名ほど持っていなかった。たぶん。  LINEはクラス全員用(四名除く)と女子用(十六名)と男子用(十二名)の三グループに分けられている。その他には仲良しグループ用にも活用されていたと思う。  もし、授業中に使用していることが見つかったならば、その日は下校時間まで教師に没収される。担任の先生や生徒指導担当の先生に叱られ、親に連絡されることもある。  何度か数人ほど没収されたことがあり、その後はみんなルールを守るようになった。  中学二年生のとき、ある事件が起きた。  女子のグループで、当初のLINEグループからある子を除いて女子全員がLINEグループから抜けた。そして新たなLINEグループができあがる。明らかな排除だ。  私は倉田百花からLINEグループから抜けるように指示があり、言われるがままに従った。そのときは意味がわからなかったけど、あとで、イジメだと理解した。  おそらく椎名凜の指示だろう。その子は凜からあまりよく思われていなかった。何が原因で嫌われたのかは私のようなグループの末端にいる存在に真相は伝わってこない。  結局、凜に目を付けられた彼女は中学二年で受験勉強を理由にして転校した。  人のイメージは個人個人で違う。評価もまちまちだ。良く思っている人や嫌いな人から観るイメージで評価は変わる。当然と言えば当然だ。でも、学校という空間では、一つの評価に合わさなければ居場所を失われることも少なくない。恐ろしいことだ。なにしろ人生が変わるのだから。  そんな事件があったけど、中学三年生になっても、クラスのメンバー構成はあまり変わらなかったので、私はできるだけ目立たないように気を遣った。  例えば、毎朝といっていい、おはようの挨拶などでは、真っ先に既読返信はしない。私はスマホを眺め、八番目前後に返信を送るようにしている。早めに返信すると生意気だと思われる。「何を調子に乗って、誰々を差し置いて、先に返事してんのよ」ってことに、でも、逆にあまり遅くなると「何グズグズしてんのよ。この、のろま」っていうことにもなりかねない。だから目立たぬように中間でいるのが一番良いと判断したからだ。  朝からこんなくだらないことにも気を遣わなければならないなんて、本当に疲れた。  でも私の存在なんてそんなものだ。  そんな思いもあって、凜たちが目指した高校の駅から二つ乗り越した高校へ行くことにした。通学が遠くなるから、母校の中学からはあまり進学しない。  あと三年間も気重な気分で過ごしたくはなかったからだ。  中学三年生のときは毎日カウントダウンの日々を過ごした。  あと十二ヶ月、あと十一ヶ月と過ごす。  月の過ごし方は、まずは一週間、と過ごす。二週間目は繰り返し、三週間目に入るとあと半分と思いながらその月を過ごす。  週の過ごし方は、まずは一日目、と過ごす。二日目はまだ始まったばかり。三日目、ちょうど半分、と日数を減らしていく。  過ぎた日は毎日カレンダーに斜線を入れた。  そして何事もなかったと安堵する。  そんな日常生活の中、ある日、目を()かれた人がいた。  最初は外の景色を眺めようと、ふと視線を窓に向けたときだ。  視線の通り道。  私の席から外の景色までの通り道に彼女がいた。  外光のせいかもしれないけど、私には彼女が輝いているように見えた。後光(ごこう)が差したような、(きら)びやかなオーラのような、妖精を絵に描いたような、そんな(まぶ)しさを感じたのだ。  私はハッと息をのんだ。視線が釘付けになった。身体の足から頭の天辺までジーンとする感覚を覚えた。  彼女は姿勢正しく座り、静かに読書をしていた。  お昼休みの出来事だ。  それ以来、私はチラチラと彼女に視線を向けることが多くなった。
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