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一 「憧れの人に会いたくて」5
ある日のお昼休み、倉田百花が真田葵さんに何かを伝え、一緒に教室を出て行った。
教室には椎名凜、間宮菜月、須崎さくらもいなかった。
進学校組の上条結衣、向田陽菜、林真央の三人は食事中で教室内に残っていた。
私はと言えば、食事は済んでいたが、百花に、「あんたは来なくて良いから」と意味のわからないことを先に言われていたので教室に残った。
でも、トイレに行きたくなって廊下へ出ると、教室にいない四人が真田さんとトイレの方へ向かっていた。私はドキッとして教室に戻った。ドキドキしていた。何が起こるのだろう。怖くて席を立てなかった。結衣、陽菜、真央たちが向き合って話をしている所にも訊きに行けなかった。
十五分か二十分くらい過ぎた頃、真田さんが一人で教室に戻ってきた。
真田さんの雰囲気はいつもと変わらなかった。
お昼休みが終わる頃、凜、菜月、さくら、百花が教室に戻ってきた。
私はビクッとした。みんな押し黙って下向き加減で教室に入ってきたからだ。なんだか青白い顔をしている。誰もしゃべっていない。凜にいたっては少し唇を噛んでいるような、苦虫を噛み潰したような表情をしている。とても近寄れるような雰囲気ではなかった。私は机にうつ伏せになって、すぐさま寝ているふりをした。心臓がバクバクして破裂しそうだ。怖い。怖くて仕方がない。早くお家に帰りたいと切に願った。
あの日のことを、私は「トイレ事件」と一人で位置づけた。
トイレ事件があった日から教室内の雰囲気や光景が変わった。
あくまでも私が観て感じたことだ。男子はいつもと変わらない。女子の一部は、凜のグループは明らかに真田さんを無視していた。いや、無視と言うより、この場に、この世界に、真田さんが存在していないかのように、近づくこともなければ、当然話しかけることもなく、真田さんの存在が彼女たちの世界から忽然と消滅したような感じを受けた。
なのに、真田さんは、今まで通り休み時間に読書をしていて、お昼休みには図書室に場所を変えているようだ。おそらく読書だ。彼女の時間と学校での生活リズムには変化が見られなかった。
いつも自然体の彼女。
私はいつしか憧れの眼差しを持って彼女に視線を送るようになった。
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