一 「憧れの人に会いたくて」6

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一 「憧れの人に会いたくて」6

 話は幹事を受けたことについて戻そう。  決定的な動機は、憧れの彼女に連絡ができるようになるということだ。  ちゃんとした理由になる。  当然のことだろう。同窓会となれば出欠の確認が必要となる。そのためには何らかの連絡も必要だ。ハガキの郵送、メール・LINE、電話などだ。 「真田葵さんの連絡先は先生から聞いてるから。自宅の連絡先だけど。先生も会いたがっていたし。だからさぁ、頼むよ、西内」  風見君が真剣に懇願(こんがん)する。電話でもその気持ちは伝わってきた。  私は内心飛び上がりそうになるほどうれしかった。でも喜びは伝えられない。  私は渋々な感じで伝えた。 「しょうがないなぁ。わかったわよ。やります」 「ほんとか。わりぃな西内。助かったよ」 「ちょっと訊きたいんだけど、どうして真田さんがそんなに気になっているの。告白したいとかじゃないんでしょ」 「ちゃんと伝えるのは難しいんだけど、真田さんって、なんかカッケーんだよ。なんていうか、悪い意味じゃないんだけど、独りぼっちな感じなのに堂々としているというか、自分を持っているというか、何事にも揺るがない信念みたいなものを感じるんだよ。萎縮(いしゅく)してるわけじゃないし、いじけてるわけでもないし、真田さんを観てるとカッケーなって素直に思えたんだよな。だから今どんなんかなって、気になってさ。たまに思い出すこともあるんだよ。真田さんが机に座っている姿勢、休み時間に読書している姿、図書室へ行くとことか、印象に残ってるんだよ。それに西内も真田さんのこと観てただろ」  ドキッとした。私の密かな憧れを見抜いてる人がいた。それが風見君とはちょっと情けない気もした。でもそこは素直に頷いた。 「うん、まあ」  ということで幹事を受けた。  でも、全員に連絡となれば荷が重いと正直に打ち明けた。  すると風見君が同窓会の出欠確認について提案をしてくれた。  男子は風見君が確認をする。女子については、K高は風見君が同じだから確認をする。商業高校は百花と連絡を取った風見君からとりまとめてもらって、私に連絡をくれるという。ただ、進学校のT高だけはとりまとめてくれる人が決まらず、結局、私にお鉢が回ってきた。M高は私だけだし、T高の駅は通学の途中駅だし、電車で会うこともあるからという理由らしい。 「西内、お前、椎名が苦手だろ」  ギクリとした。突然核心を突いたことを言う。 「そんなことないよ」  私は動揺を隠して否定した。 「なんか、西内って、あいつらに都合の良いように扱われてたような気がしたからさ。掃除とか、何かの役とか持たされてただろ。かといって、あいつらが西内に代わってやるところなんか観たことねぇし。まっ、西内がなんとも思ってねぇならいいけどよ」  お前は探偵か。って言いそうになった。  先ほどから話していると、風見君って、ズバズバと心理を言い当てて、変に核心的なところを鋭く突ついてくるんだよね。真田さんに目を付けているところとか。(あなど)れない感じ。迂闊(うかつ)なことはしゃべれない。 「でも、椎名と真田さんは仲が悪かっただろ」  またまたギクリとした。  思ってても、答えられるか、そんなこと。  あんたねぇ、いい加減にしなさいよ。と言ってやりたいところだが、 「もう、何言ってんのよ。電話切るよ」 「わりぃ、わりぃ。じゃあさ、また電話するから、T高の女子のこと頼むよ」  最後に私のアドレスを教えると、やっと電話が切れた。その瞬間にため息がでた。ため息がでたけれど、不安と期待が入り交じっていた。  真田さんに連絡ができる正当な理由ができたからだ。 ちょっとウキウキする。 連絡先は風見君が名簿を撮ったものを転送してくれた。
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