一 「憧れの人に会いたくて」7

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一 「憧れの人に会いたくて」7

 さて、真田さん以外は連絡を取り、出欠の確認が取れた。 T高の女子は受験生であるにもかかわらず、全員が出席することになった。今のところ真田さんを除いてだが。一番の目的を最後に残した。  これも私の性格が出ている。  食事でも一番好きな物は最後に食べるようにしている。楽しみを残しておきたい。  でも、今回は楽しみもさることながら不安もつきまとう。果たして真田さんは出席してくれるだろうか。もし、出席してくれなかったら、一体何のためにめんどくさい幹事を引き受けたのか、全ての気苦労と気遣いと労力が無駄(むだ)になる。  土曜日のお昼過ぎ、私はスマホを片手にドキドキしていた。  緊張する。プレッシャーを感じる。胸が張り裂けそうだ。まるで告白電話でもするような一世一代のミッションだ。  ひとつひとつ番号を押す度に緊張のボルテージがあがっいく。発信音が鳴った。呼び出している。一回、二回、三回、四回、五回目に電話がつながった。  どうやらお母さんらしい。  私は名前と中学の同級生であることを伝えた。内容も同窓会のことでと話をして、在宅かどうかを訊ねた。  彼女は自宅にいた。  お母さんが彼女を呼びに行った。保留音が流れる。私は鼻息が聞こえそうなほど呼吸が乱れた。待ち時間が長く感じた。  彼女が電話口に出た。  まずは自己紹介だ。名前と中学三年のとき同じクラスにいたことを説明した。  彼女は、あっ、と一言だけ声を漏らした。なんとなく覚えてくれているようだ。  次に同窓会のことを伝えた。 「私は欠席でお願いします。じゃあ」  素っ気ない返事で会話が終わった。 「あっ、あの」と引き留める私の声は彼女に届く前に電話が切れた。  これを世間では「瞬殺(しゅんさつ)」というのだろう。  あまりにも呆気(あっけ)なくて、(みじ)めで、(なさ)けないほど無力なできごとだ。  しばらく放心していた。  今、何が起こったのだろう。  まるで、最後に残していたエビフライを、「いらないならちょうだいね」と姉に取られたときの気分だ。「私のエビフライを返してぇ」と言い終わる前にパクリと音がする。私の大好きなエビフライが消えた。そんな感じだ。  伝わるかなこんな例え話。誰にこんなくだらない例え話をするつもりなのか、明らかにショックを受けて動揺している。頭の中が混乱の満員電車だ。  ハッとして我を取り戻すと、 「ええええっ。何も話してないのに。なんで?」と叫んでいた。  カクンと頭が下がった。  けちょん。  土曜日の夕暮れ、寂しさが増した。  涙がちょちょぎれる。とはこういうときに使用するのだろう。
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