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 今日はお酒を飲んだから大黒さんは私の自転車で帰ってゆく。キーコ、キーコ。油を差しても音がする。霧雨だった。私は飲んでいないから大黒さんの車で追いかけたらいいのだろうか。今日はもう少ししてほしかった。できたはず。車には鍵がついていなかった。  欲だけで正しく生きている人間がいるのだろうか。理性と抑制は違うのだろうか。  一本のまっすぐな道が村の真ん中を走っている。昔は宿場町だったらしい。今は廃れて、私や大黒さんのような人が逃げ込む場所になった。  恋に悩んでも眠れる性質だ。この、田舎独特の静寂が好きだ。家の中で鳴いているコオロギが私を虚しくさせる。そこにいても無意味。私と同じ。鳴くなら外で鳴きなさい。好きな人に出会えたから私のほうがラッキー。
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