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 朝方、玄関の戸を叩く音で目が覚めた。『トントン』ではなく『キリ、キー』とガラスに爪を立てる音。だから普通の人でもおかしな人でもないことに気づく。 「大黒さん?」 「おはよう」  昨日、別れたときと同じ服だった。疲れた顔をしている。 「どうしました?」 「寒い」  と言ったからパーカーを貸した。 「それしかなくて」 「小さい。でも入った」  つんつるてんというよりは無理くり。 「お茶淹れますね」 「うん」  濃い緑茶を飲みながら大黒さんは話してくれた。昨夜、就寝中のおばあさんが敷布団パッドの紐で首をくくってしまい、救急車で運ばれたそうだ。一命は取り止めたらしいが意識は戻っていないらしい。そんな状況なので警察とも話をしなければならないらしい。  顔や頭をくしゃくしゃにして、事故なのに自分を責めている。私はどうしたら大黒さんの役に立てるのかを考えた。手を摩って、毛布に包まった。 「やる気ないよ」 「当たり前でしょ。少し寝て」
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