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それから数日後の朝、登校途中の中学生とすれ違った。坊主の颯爽とした男の子だった。私は畑仕事をしていて、枯れた雑草を抜いたりしていた。彼が踵を返して、ずんずんとこちらに近づいて来たことに気づいたときには土の上に横たわっていた。大黒さんと違って、乱暴だ。こんなときでもあの人のことを考えてしまう。横に倒すときに頭のうしろに手を置いてくれること。服は破らずにボタン一つずつをちゃんと外す。重くない。つまり、体重をかけないように配慮してくれているということ。
「痛い」
と訴えればやめてくれる。
やめてくれずに、続行する男の子を止めようと手をバタバタして精一杯抵抗していた。助けてくれたのは近所の恥ずかしがり屋のおじいさんだった。フォークを巨大にして先を尖らせてもので少年を刺してしまった。くっさい牛糞がついていたから少年がかわいそうだった。息も絶え絶えで、でも私はその手を握らなかった。空を掴む彼の拳は私にさえすれ違わなければきっと素敵な未来を掴めていたのだろうと推測する。
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