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 私のせいでたくさんの男の人が人生を誤る。奥さんや恋人と別れてしまったり、仕事をやめて博打に走ったり、つきまとったり。私が欲したわけじゃない。私は人に物をねだったこともなければ金銭を要求したこともない。男の人が勝手に行動してしまう。だから、捨てられた女の人が私を憎むのは納得いかない。その男の人を管理できなかったあなたのせいでしょ。  私は、きれいなだけ。そうして生まれてきてしまったのだからしょうがないじゃない。  旦那さんに離婚を告げられてブチ切れている奥さんと三人で話し合いをすることになったときも私は頭にはてなしかなかった。だって私は旦那さんが好きではない。それなのに離婚の話し合いに駆り出されて迷惑だ。そちらの問題で、私は無関係。だけれど旦那さんが私に惚れてしまったことだけは謝ろう。 「美しくてごめんなさい」  そう言ったら奥さんにオレンジジュースを頭からぶっかけられてべとべとになった。その奥さんも根っから悪い人じゃないのだと思う。自分の熱いコーヒーでは私がやけどするかもしれないからオレンジジュースを選択してくれた。見た目も普通にきれい。それなのに私と関わったせいで公衆の面前で罵声を吐くような人に早変わり。  ホテルのラウンジの900円もするオレンジジュースが私から滴る。一口も飲まなかった。 「ごめんね」  旦那さんは小さいおしぼりで私を拭いてくれた。その触り方がすごく嫌だった。なぜこんなことになっているのだろう。彼は勤め先の上司だった。付き合ってもない。キスすらしていない。彼の目が一直線に私を見ている。その目には憶えがある。私を好きになる人はみんな同じ目をする。私はその目を向けられると背けたくなってしまう。 「仕事は辞めるので、奥さんとは別れないでください」  私は言った。 「僕とは?」 「何もないじゃないですか」  本当に何もなかった。私は人の脳を混乱させてしまうらしい。意識を混濁させて、間違ったほうへ誘導してしまう。全てが相手側の妄想。ずっとそう。怖くなって私はその人たちから逃げ続けてきた。
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