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座席に爪を立ててしがみついていると、前の席から、にょきっと彼女の首が伸びてきた。
「ちょっと、静かにしてよ――あ、こんにちは、”小雨坊(こさめぼう)”さん。今日は天井席なんですね」
「……うん……安いから……ポップコーン……水滴、ごめん」
「ああ、小雨坊さんは、小雨の妖怪ですもんね。気になさらないでください」
それから彼女は、キュッと長い首をひねって俺を見た。
「ねえ、これで静かにしてよ。いいところなんだから」
そう言うと、彼女はサクランボみたいな唇で俺にキスをした。
ちゅっ。
そのままシュルシュルと首が元に戻って、彼女はまたスクリーンにくぎ付け。画面では、妖怪・ニンゲンが不格好に走り回っていた。マジ怖いわ、あの走り方……。
ああもう。
『ろくろ首女子は男ホイホイだ』っていうけど、ホントだな。あの角度からキスされたら、もう。
俺はそっと額や口のまわりを毛づくろいする。ぺろぺろ舐める。まだ小雨がさらさらと、俺の上で音を立てているからだ。
昔から言うだろ。
”化け猫”が顔を洗うと雨が止むって。
せめて残りのポップコーン、食べたいんだよね。にゃーん……。
【了】
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