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嬉しいけれど、やっぱり寄り添うように歩いていたふたりの姿が目に焼きついたままで。
「今日みたいに女の子とふたりでよく出かけたりするの?」
「しないよ。今日だってふたりきりじゃなかったし。友達カップルに付き合ってもらってたんだけど、あのとき急に雨降ってきたでしょ。俺しか傘持ってなかったから、彼氏のほうが傘買いに行ってたんだよ。美雨が見たのはたぶんそのときじゃないかな」
「じゃああの人とはなんでもないんだ」
「そういうこと。あいつらひどいんだよ。俺に彼女いるってこと信じてくれなくて」
雫の提案でその友達カップルとビデオ通話させてもらって、誤解は解けた。雫の彼女、実在したんだな、なんて言われて一緒に笑ってしまった。
新幹線の駅に向かう途中、また雨が降りだして、雫が青い傘をひらいてくれた。降り始めの雨は大粒で、傘をばたばたと叩く。
「雫」
呼びかけたけれど、大きな雨音にわたしの声はかき消されてしまう。ぐいとシャツの袖を引っ張ると、雫は屈んで自分の耳をわたしの口の前まで寄せてくれた。
「疑ってごめん。会えない間、雫がそっけない気がして、こっちで好きな人でもできたのかなって思っちゃった」
「こっちこそ不安にさせてごめん。美雨の勉強の邪魔にならないようにって思ってたのが裏目に出たかな。いつからこっち来るの」
「卒業式が終わったら」
「次来るときまでこの傘持っててよ」
雫は青い傘をわたしに持たせてくれた。大きくて可愛くもない傘だけど、それでも嬉しかった。
街はすっかり暗くなってしまった。雨に濡れた路面に東京タワーのオレンジの光が柔らかく滲む。ビルの明かりも煌々と輝いていて、東京はちゃんときらきらして見えた。
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