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震える指で雫に電話をかける。ぷつりという音で切られたのが分かった。しばらくしてから『ごめん、今忙しい』という文字が無機質な画面に表示された。視界に文字が滲む。突然の雨だったから傘を持たないわたしはずぶ濡れ。その場にうずくまって動けなくなったわたしに声をかける人はいない。誰もが見て見ぬふりをする。
やっとのことで雨を凌げる場所に移動したけれど、降りそそぐ雨は大きな音を立て、ノイズにしか聞こえない。雨のせいか街は灰色だ。東京はきらきらなんてしてないじゃないか。
夕方になって雫から電話があった。出るのがこわくて鳴り止むまで待ってみても、数分後にまたかけてくる。いつまでも逃げているわけにはいかないと、深呼吸をしてから通話ボタンを押す。
「美雨、昼間はごめん。手が離せなかったんだ。どうかした?」
「実はこっちに来ていて」
「そうなの? なんだ、来るなら先に言っておいてくれれば迎えに行ったのに。まだ帰ってない? 今からでよければ会おう」
指定された場所は、わたしたちの故郷の丘に似た場所だった。雨は止んでいて、湿った土と草の匂いがする。
「傘、要らなかったな」
後ろからかけられた声に、わたしの心臓はきゅっと小さく震えた。振り返ると、あの日のように傘を二本持った雫が立っていた。青い傘とビニール傘。
「久しぶり。会いたかった」
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