怪物

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古い友人の霧子ちゃんが、年下の超ハイスペック男子と結婚した。 大人しくて腰が低く、皆のいじられ役的存在の霧子ちゃんがそんないい男性を捕まえたのかと驚いたけど、霧子ちゃんもお相手の男性に負けずと劣らない信用性の高い仕事をしているので、違和感はない。 地元の居酒屋で結婚祝いのパーティーを開催し、霧子ちゃんとお相手の門出を心から祝福したのであった。 ところが、である。 霧子ちゃんは二年も経たないうちに離婚してしまった。 そのことにも驚いたけど、理由は霧子ちゃんのハラスメント行為と聞いて更に驚いた。 人のいい霧子ちゃんに限ってと思って調べてみると、元旦那さんは 「離婚に応じてくれたら、君には何も要求しない」 と離婚を請求、成立した現在は専門医の御世話になっているという。 実際、元旦那さんが心療内科クリニックのあるビルに入るのを見た、薬局で安定剤をもらっているところを見たという子が何人もいるので、すべてがデマということもないだろう。 だけど、霧子ちゃんに限ってハラスメント行為で元旦那さんをそこまで追い詰めたとは思えず、何かの誤解か間違いだろうと思っていた。 そんなある日、霧子ちゃんから 「元夫とやり直したい」 と相談されて、私を含めた数人の友人と霧子ちゃんの家で宅飲みをすることにした時、 「元夫が再婚を視野に入れて、別の女と交際しているらしい。私じゃないと生きていけない人なのに」 などと言い出したのが衝撃的だった。 元旦那さんは、休職しているとはいえ収入の良い資格職に就いている。 おまけに、大手モデル事務所からスカウトされたことがあるほどのイケメンだから、離婚したら他の女性が放っておくはずがない。 すべて承知の上で離婚に応じたと思っていた。 それを指摘しても 「すぐ戻ってくると思っていた」 「『君じゃなければ駄目なんだ』と泣きついてくるはずだったのに」 「私に無断で再婚するなんて、絶対に許さない」 と泣きながら繰り返す。 そんな霧子ちゃんを見て、元旦那さんに対する諸々のハラスメント行為が原因の離婚なのだと、私たちはようやく理解した。 ハラスメントといえば、気の強い人やそれなりの社会的地位がある人がしてしまう印象があったので、 「まさか、あの霧子ちゃんが」 というのも手伝い、色々と衝撃的な宅飲みとなった。 予定より早く霧子ちゃんの家を辞した私たちは、別のお店で朝まで飲みながら 「人は分からないものだね」 と言い合ったのだった。 数日後、海外出張から戻った私の旦那にそれを話すと、 「霧子さん、やはりそういうタイプの人間だったか」 と言って眉間にシワを寄せた。 顔はもう、吐きそうである。。 外面よく振る舞って周囲に「根っからの善人」だと信じさせ、被害に遭った人が誰かに打ち明けても 「あの人に限ってそれはない」 と相手にしないように周囲を洗脳してしまう、霧子ちゃんはその典型的なタイプだというのだ。 旦那の友人がそういうタイプの人間に遭遇して泣かされたのを、間近で見たことがあるらしい。 だから、霧子ちゃんを一目見て、瞬時に 「この人はただ者ではない」 と見抜き、私が巻き込まれたりしないか心配でならなかったという。 言われてみたら、昔から 「霧子ちゃんと何か揉めているな」 と思ったら、揉めた相手が引きこもったり遠くの街に引っ越ししたりして行ったことが度々発生していた。 一度二度どころの騒ぎではない。 その子たちは、信用できる相手に霧子ちゃんとのことについて何度も相談していたのに 「あの子はトラブルを起こす子じゃないよ」 と鼻で笑われたり、 「そんな見え透いた嘘をついてまで霧子ちゃんを陥れたいのか」 と集団で責めを受けていた。 その時は被害に遭ったのは霧子ちゃんだと思っていたが、真相はまったく異なるものだったようだ。 元旦那さんも離婚直後 「いい奥さんを自分勝手な理由で捨てた」 と白い目で見られていたとずっと後になってから聞いた。 それが病んでしまった原因の一つかも知れない。 私たちに被害が及ぶ前に、霧子ちゃんの本性が分かって良かった。 ホッと安堵しつつ、私はこっそりと怪物の連絡先をブロックした。
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