夢の中かもしれない

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 一方的に言葉を叩きつけると、少女は紺のスカートを翻して部屋を出て行った。階段を駆け下りる音が徐々に遠ざかる。  しんと静まった部屋で、皐月は一つため息を吐いた。 「瑠香……びっくりした?」  ゆっくりと皐月を見上げる。皐月は悲痛な顔で瑠香の椅子の横に(ひざまづ)くと、そっと手を取った。  その仕草はまるで――少女漫画を超えて、おとぎ話の王子様だ。  凛々しい王子様が、あたしを選んだ。  やっぱり、ちょっとくらいぽっちゃりのほうがモテるって本当だった。  さっきの子、細過ぎなんだよ。 「驚かせてごめん。でも僕は本気だよ。きみと結ばれたい。でも……今のままじゃ、きみを抱き締めることもできない」  あたしは、いいのに。  周りにバレないようにすればいいんだし。  それで、大人になったら実は付き合ってましたってカミングアウトすればいい。  そんなことをオブラートに包んで言うと、皐月は悲しげに首を振り、 「それじゃ、駄目だよ。瑠香への気持ちを隠し続けるなんて辛すぎる。僕は少しでも早く、堂々と、公認の関係になりたい」  瑠香はうっとりと頷いた。  皐月が思い切ったように口を開く。 「だから…………」  そうして、皐月が授けてくれた。  瑠香と、支障なく結ばれるための魔法の言葉を――。
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