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夢なら醒めないで
あれからほんの一週間後。
皐月ががらんどうの部屋――元妹の部屋を見回していると、階段を上る足音がして、黒髪の少女が顔を覗かせた。
もぬけの殻の部屋を一瞥し、皐月と目が合うとうんざりした顔で、
「成功したんだ、まんまと」
「早苗のお陰でね」
早苗と呼ばれた少女は深々とため息をつき、
「二度とあんたとつきあってるふりなんてごめんだからね。バレたら彼氏に泣かれるから」
「ただの元カノじゃない、婚約者だろ?」
「だから、やめてってば。あんたを男として見るとか、吐きそう」
「母さんのためだから。早苗だって、僕の母さんには可愛がってもらっただろ?」
早苗は戸口に寄りかかると、目を伏せた。
あのときのお芝居の、彼女が幼なじみであることだけは真実だった。
「小母様か……」
「この家は、母さんの思い出と理想と希望が詰まった、母さんが作り上げた、母さんのための家だ。他人に踏み荒らされるのは許せない」
皐月は淡々と言って、空き部屋をさらに見分する。あの、『異端者』の髪の毛一本でも見逃さないように。
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