夢なら醒めないで

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 早苗はその皐月を横目で見て、 「でも、あんなくっだらない少女漫画みたいな茶番、必要あった?小父様にちゃんと話せば……」 「親父が『子供』の言うことなんか聞くわけない。親父の考えを変えさせるより、入り込んだ異物を元の場所に戻すほうが早い。絶対に」 「どうやって追い払ったの?あの子、あんたにメロメロだったじゃない」 「このまま兄妹でいると、どう頑張っても結ばれない。必ず迎えに行くから、僕のために一度離れて欲しいって。母親に、『父親から風呂を盗撮された』とでも言えって。それだけ。――金に目がくらんで、娘を売るような母親じゃなくて幸いだったよ。年増に色目を使うのは苦痛だからね」  瑠香に母親の説得ができなかったら、そのときは母親の方に手を打つ必要があると思っていた。その点、瑠香――元妹は、期待通りの働きをしたと言える。  『風呂の盗撮』以外もアドリブで付け加えたのかも知れない。出て行くとき、皐月の父を見る母親の目は忌まわしいものでも見るかのようだった。  早苗は顔をしかめ、 「あんたの絵空事、あの子真に受けてるんでしょ?押しかけてきたらどうすんの」 「セコムが駆け付けてくれるし。迷わず警察呼ぶし。ま、そうなる前に『ヤれれば誰でもいい』僕の友達、あてがってやるよ。すぐに僕のことなんか頭から消え去る」  何でもないように答える皐月を、早苗はじっと見つめた。  その幼なじみの目線に、痛ましさと空恐ろしさが混じり合っているのが皐月にも感じられた。 「皐月。あんた歪んでるよ」 「知ってる」  どれだけ歪もうが構わない。人間なんてどこかしら歪んでいるものだ。  この家を――母さんの愛したこの家を守る。  そのために、この家に入り込む害虫は駆除する。  どんな手段を使ってでも。
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