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白い歯を見せて、微笑んでいる若い男性は中に二人を招き入れ、
「さあ、どうぞ。遠慮しないで。今日からここがお二人の家ですから」
と言って、まるでお芝居でもしているような優雅な身のこなしで母親から荷物を受け取った。
「あの……皐月さん。どうぞ、よろしく」
母親がたどたどしく挨拶する。瑠香はそんな母親の態度にもどかしさを感じつつ、目の前の男性……このお屋敷の住人、森崎皐月をちらちらと見上げた。
高級ブランドのロゴが胸で輝くシャツに、長い足を引き立てるジーンズを履いている。ラフな服装でも、知的な空気は内側から滲み出ている。
彼はこの邸宅の主、森崎智之の一人息子だ。高校三年生。瑠香が通う『下の上』レベルの高校とは世界が違う、お受験で幼稚園から持ち上がる私立の難関高校に通っている。
おまけに容姿端麗、生徒会役員もしつつ、サッカー部レギュラーと「少女漫画のヒーロー」を具現化したような人物だ。
ああ――ほんと、嘘みたい。
ほんとに、こんな人と……私が。
先手を打つように皐月が瑠香を見て、
「瑠香ちゃん。今日から僕の妹だね」
と言って優しく笑いかけた。
こんな、素敵なお兄ちゃんができる、なんて。
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