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こちらが頼んでもいないのに勉強を教えてくれることもそうだし、特に、あたしを見つめるあの目……。あたしの全てを知ろうとするような、絡みつくみたいな視線。最初は気のせいかと思ったけど、そうじゃなかった。
今までも、あたしに気があるなっていう男子からジロジロ見られることはあったけど、それとは全然違った。きっと、本気の視線ってあんななんだと思う。
もちろん満更ではなかった。これ以上ないくらい……まるで、王子様みたいな人だ。完全無欠。
そんな人と一つ屋根の下に暮らしているなんて……迫られたら、きっとあたしは受け入れちゃうだろう。
けど……あたしとお兄ちゃんは、戸籍上家族。血はつながらなくても兄妹だ。
こんなことが現実に起こるとは思いもしなかったころに、うっとりして読んでいた少女漫画には、そんな兄妹が人目を忍んで愛し合う世界が沢山描かれていた。
まさか、自分がそんな悲劇のヒロインになるなんて。
あたしが、お兄ちゃんを苦しめてしまうの?
そう考えると胸が締め付けられるように苦しくなる。
でも、それは耐えなければならない苦しみだ。お兄ちゃんも、あたしも。
いつものように机について、
「今日の宿題は?」
皐月が手を差し出して尋ねる。瑠香はバッグからプリントを取り出して皐月に渡した。さっと目を通し、
「瑠香の苦手な図形問題か。これは高くつくよ」
皐月がからかうように言って、プリントを軽く指で弾く。いつの間にか、名前を呼び捨てにされている。呼ばれる度に距離が縮まるようで天に昇る気持ちだった。
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