32人が本棚に入れています
本棚に追加
夢の中かもしれない
皐月の部屋のドアをノックし、
「お兄ちゃん。着替えたよ」
「どうぞ、入って」
ドアの向こうから声がして、瑠香がドアを開くと、皐月は手に持ったスマホから顔を上げた。そしてもう一方の手を椅子の背もたれに置き、
「瑠香、ここに座って。――服、可愛いね」
と、褒めてくれる。瑠香は跳ねるようにして、皐月が勧めた椅子に腰掛けた。
「えっと。僕のオススメのバンドなんだけど――」
そのとき、前触れもなくドアが開いた。母親がノックもなしに入ってきたのかと、舌打ちを押し隠しつつ戸口を睨む。
が、そこにいたのは見たこともない女子高生だった。
皐月と同じ高校の制服を着ている。
長い黒髪はさらさらと音を立てそうなくらい、真っ直ぐで張りがある。膝丈のスカートから伸びる足はほっそりしていて、何より顔が小さくて整っていた。
圧倒されるほどのその容姿で、少女は瑠香をちらりと見て、それから皐月を見据えた。
「皐月。別れたいって、なんでよ」
強張った、怒りが混じった声。その言葉に、瑠香は慌てて皐月を見た。
皐月は素っ気なくスマホに目を落とし、
「勝手に部屋に入るの止めてくれって言ったよね」
「小父様がいいって言ってくれてたから構わないでしょ。ここは小父様の家だし」
腕組みをして言い放つ。
おろおろとする瑠香を安心させるように、皐月は頷いて見せた。
「瑠香、大丈夫。――この人は、僕の幼なじみだから」
「それだけじゃないでしょ。婚約者、でしょ」
最初のコメントを投稿しよう!