夢の中かもしれない

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夢の中かもしれない

 皐月の部屋のドアをノックし、 「お兄ちゃん。着替えたよ」 「どうぞ、入って」  ドアの向こうから声がして、瑠香がドアを開くと、皐月は手に持ったスマホから顔を上げた。そしてもう一方の手を椅子の背もたれに置き、 「瑠香、ここに座って。――服、可愛いね」  と、褒めてくれる。瑠香は跳ねるようにして、皐月が勧めた椅子に腰掛けた。 「えっと。僕のオススメのバンドなんだけど――」  そのとき、前触れもなくドアが開いた。母親がノックもなしに入ってきたのかと、舌打ちを押し隠しつつ戸口を睨む。  が、そこにいたのは見たこともない女子高生だった。  皐月と同じ高校の制服を着ている。  長い黒髪はさらさらと音を立てそうなくらい、真っ直ぐで張りがある。膝丈のスカートから伸びる足はほっそりしていて、何より顔が小さくて整っていた。  圧倒されるほどのその容姿で、少女は瑠香をちらりと見て、それから皐月を見据えた。 「皐月。別れたいって、なんでよ」  強張った、怒りが混じった声。その言葉に、瑠香は慌てて皐月を見た。  皐月は素っ気なくスマホに目を落とし、 「勝手に部屋に入るの止めてくれって言ったよね」 「小父様(おじさま)がいいって言ってくれてたから構わないでしょ。ここは小父様の家だし」  腕組みをして言い放つ。  おろおろとする瑠香を安心させるように、皐月は頷いて見せた。 「瑠香、大丈夫。――この人は、僕の幼なじみだから」 「それだけじゃないでしょ。婚約者、でしょ」
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