残酷な魔法は、きっとそこにはないから。

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かつて、魔法とは。 人の羨望の対象であった。 かつて、魔法使いとは。 人の尊敬の対象であった。 だが、それも遠い、遠い昔の話。 魔法は、絶対の力となった。 人の、恐怖となった。 人の、悪意となった。 そして魔法使いの居場所は、なくなった。 殺された。 狩られた。 自らいなくなることを、望んだ。 魔法使いは悪であり。 そしてまた魔法も悪となった。 人々はまるで獣のように目を血走らせ、魔法を睨み付ける。 その匂いを嗅ぎつけ、そしてその喉笛をかみちぎらんばかりに鋭利な牙を剥く。 ――殺せ―― 声が。 ――殺せ、魔法使いを―― 声が、声が、声が。 ――殺せ、皆殺しにしろ―― 声が、世界に満ちた。 魔法使いはその力を前に、抵抗することも逃げることも知らなかった。 ただその圧倒的な力を前に。 彼らは、どこまでも無力だった。 「魔女狩りを始める。」 少年だった彼は、今はもう非力な弱い瞳のままではない。 冷たく、凍った瞳で鞘から剣を抜き、血濡れたそれをさっと地面に振り払う。 魔女狩り。 魔法使いを、狩る。 それが彼の仕事であった。 それが、彼の魔法使いに対する復讐であり、そして彼らへの罰であった。 「……」 彼の前で血塗られた魔法使いは目深に被ったぼろぼろのローブの下で少しだけ笑う。 その笑みは影に隠れ、けれど彼の耳には届く。 彼は少し首を傾けると、片足で魔法使いの顔を蹴り上げた。 がつ、という骨が当たる音が響き、ローブが剥がれる。 青年。 一瞬にして目が奪われるほどの豊かな白髪を肩まで伸ばした青年であった。 そして、その顔を彼は、少年は知っていた。 「お前は。」 彼は低い声で呟く。 魔法使いは全てを諦めたような。 あの日と同じ、柔い笑みでこくりとうなずいた。 「……元気そうで、良かった。」 魔法使いから放たれた言葉はそれだけであった。 それだけで、あった。 彼は、少年はそれに憎々しげに瞳を燃やし視線をそらす。 「……奴を火刑に処せ」 「え?」 彼の言葉に聞き間違いか、と命じられた部下が言葉を返す。 「重罪人じゃないですよ?」 火刑は最も重い処罰であり、ただ魔法使いであると疑いをかけられただけの男に下す処罰にしてはあまりに不当すぎる。 部下の疑問に彼は舌打ちをすると冷徹に遮った。 「口答えするな。」 「……はいはい」 部下は肩をすくめ、本当に鬼だな、と愚痴りながら魔法使いの身体を持ち上げる。 彼はそれを見つめると、しばらくして踵を鳴らし踵を返した。
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