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 また連絡すると約束して通話を切り、携帯の電源を落とす。その瞬間、わたしは透明になる。今ならどこにだって行けそうな気がする。  足どりは順調で、ちょうど学校を横目に通り過ぎようとしていたときだ。校門のあたりに人だかりができていた。集まっているのはそろいの練習着に頭は丸刈りの野球少年たちで、背格好からしておそらく上級生と思われた。 「練習中にべそべそ泣きやがった根性なしのくせに」  人だかりから笑い声がする。ひとを馬鹿にする笑い方だった。眉をひそめていると、私服姿の男の子が、人垣の中から突き飛ばされて尻もちをついた。  野球少年たちは男の子から奪った紙袋をかわるがわる覗き込んでは笑う。男の子からやめて、と悲鳴じみた声が漏れた。 「野球より楽しいことって何かと思ったら、しょうもな」  ひとしきり笑ったあとで、野球少年たちは紙袋をひっくり返して中身をぶち撒けた。何冊もの本が散らばり、地面に叩きつけられる。もう二度と顔見せんなよ、とうそぶいて、そのまま人だかりはグラウンドに引き上げていく。
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