スロー・スロー・アゲイン

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 去年の夏のひと月あまりを、わたしはお祖母(ばあ)ちゃんちで過ごした。お祖母ちゃんが会いたがっているし、あかりは俺の実家でのんびりしてきたらどうだ。そう提案したのはお父さんで、お母さんも、夏休みの宿題に集中できていいじゃない、と賛成した。お父さんの田舎は辺鄙なところで、映画館もカラオケもショッピングモールもなければ、遊ぶ友達さえいなかった。退屈していたわたしに、お祖母ちゃんはジグソーパズルのピースをひとつひとつ埋めていくみたいに、いろんなことを教えてくれた。  抜けるような青空の日だった。手ぬぐいをほっかむりしたお祖母ちゃんの丸い顔、滝のような汗、しわだらけの手に握った緑のつややかな山椒(さんしょう)の枝、葉っぱの上に落とされた鳥の(ふん)――  鳥の糞が動いた。目を見開いたわたしに、お祖母ちゃんは言った。あかりちゃん、アゲハチョウの幼虫、初めてか。  鮮やかすぎる去年の夏を思い出す。あの夏の終わり、わたしは時を止めた。
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