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 お母さんには、祐実(ゆみ)んち行ってくる、と嘘をついた。貯金箱をひっくり返し、小銭でぱんぱんになったがま口財布。道中の空腹しのぎにグミの小袋とキャラメルの箱を斜めがけの鞄に詰め込んで、玄関で急ブレーキを引かれたように忘れ物を思い出す。自分の部屋に取って返し、住所を書きつけたメモをポケットにしのばせた。  サンダルをつっかけ家を飛び出すと、花壇に植えたマリーゴールドが風に揺れている。団地を抜け、信号が点滅しはじめた横断歩道を強引に渡りきり、最寄り駅をめざして歩く。  電話が鳴って驚いた。携帯の電源を切るのを忘れていた。携帯にはGPSが搭載されているので、わたしが今どこにいるのか、お母さんには一発でわかってしまう。  着信は祐実からでほっとした。わたしが送信したメッセージを見て、慌ててかけてきたのだろう。 『家出するって、本気?』  電波に乗って届く祐実の声音には、心配よりも呆れが滲んでいた。「本気だよ」とかぶせるように返事して、念押しも兼ねて口裏合わせを頼んだ。祐実は不服そうだが、できないとは言わなかった。わたしの友達で、祐実ほど友情に(あつ)いひとはいない。
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