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顔を見合わせたまま、気まずい沈黙が下りた。根本くんへの仕打ちを見ているだけだった負い目もあって、近寄って本を拾うのを手伝う。落下の衝撃で紙袋はぐしゃりと潰れていたが、本は無事だ。裏表紙に貼られたシールで、近くの図書館で借りられた本だとわかる。ポケット昆虫図鑑、むしのかいかた、よくわかるカブトムシの生態……タイトルに目を通し、根本くんが受け取って礼を言うのを待ってから、訊ねていた。
「カブトムシ、飼ってるの?」
根本くんはうなずいた。
「幼虫がね、もうすぐ蛹になるから、いろいろ調べてて……」
カブトムシの幼虫といえば、体が白くて、まるまると太って、だいたい土に潜って丸くなっている。そんなイメージを頭に思い浮かべていると、根本くんはばつの悪そうな顔をした。
「ごめんね、女の子にする話じゃないよね……」
わたしたちはお互いをよく知らない。たとえば、わたしは案外虫が平気だ。でも、女の子は虫が得意じゃないほうが可愛げがある。あるいは、そういうものという思い込みがある。根本くんは、そんなハリボテのわたしに疑問を抱かない。ようは、扱いやすくてちょろいのだ。
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