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家出を成功させるには、共犯者が必要だ。祐実は友情に篤いとはいえ、いつまでも隠し通せるとは限らない。お母さんに気づかれたときのために、保険をかけておきたかった。わたしと行動をともにして、わたしがひとりでいると思っているお母さんの目くらましになるような。あるいはいざというとき、わたしの言うとおり行動して、場合によっては切り捨てても後腐れないような、そんな都合のいい相手。
目の前にひとり、いた。
「ねえ根本くん、このあと暇?」
紙袋のしわを丁寧に伸ばしながら、根本くんが首を傾げる。わたしは意識して自分がいちばん可愛く見える笑みをつくった。
「わたしとデートしよう」
根本くんは本を詰めた紙袋を取り落とした。音を立てて、また本が散らばる。あーあ、と本に同情して拾い上げるのを手伝った。
「あの、それはどういう……」
根本くんが頬を赤らめて訊ねてくる。そういう勘違いをする根本くんは、可愛いかもしれない。もちろん、好みではないけれど。
「隣の席の、美桜ちゃんのことが好きなんでしょ? 予行練習だと思ってくれていいよ。美桜ちゃんにカブトムシの幼虫の話振って、嫌われたくないでしょう」
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