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図書館は時間の流れがゆったりしている。一面ガラス張りの扉を押し開くと、もうすでに、空気がちがって感じられる。本の返却コーナーに向かう根本くんの背中を見送って、わたしは壁に寄りかかり祐実に電話をかけた。一コールもしないうちに祐実は電話に出た。家出はやめてデートすることにした、と報告すると、祐実は食いついたが、相手が根本くんだとわかったとたんに興味をなくしたようだ。するにしても、相手くらい選びなよ、と鼻で笑う。
『でもさ、あんまり振り回さないでやんなよ』
わたしをたしなめた祐実の口ぶりには、まじめに心配している響きがあった。祐実のほうにお母さんの捜査の手が伸びていないことを確認して、通話を終える。携帯の通知画面に浮かび上がった「そういえば何時に帰ってくる?」のメッセージは、見ないふりをした。返却はすぐ済むはずなのに、根本くんは戻ってこない。根本くんを探しに、わたしも書架をうろついた。
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