変化する、血を添えて

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 いよいよもって僕は面倒臭くなる。  会社への不信感も含め、なんなら内定辞退も具体的な想いとなってきた。  入社まであと2ヶ月。思い止まるのであれば、まだ間に合う。  そんな事を考えていたら、兄が口を開いた。 「まぁいいんだ、お前が弟でも父親でも、なんでも。あのさ、午前中、お前、つまらなさそうな顔してたろ?」  態度に出てしまっていたのかと、僕は少し反省する。どう取り繕うか少し悩んだが、こいつにどう思われようとも今更関係無い気もしているので、僕は正直に告げる。 「まぁね。自分の勤める会社がさ、無給の研修なんて時流に逆らうことを平気でやってくるなんて思ってなかったからさ」  あくまで懇親会だと聞いていたのに、御辞儀の仕方だの名刺の渡し方だのを実践し出した時、僕は我が目を疑った。  それこそ、ブラック企業なのではないかと恐ろしくもなる。そんな会社はきっと、風通しも悪ければハラスメントも横行し、世襲制度や縁故採用にまみれた、夢も働き甲斐も無い狂った会社に決まっている。  考え直すのであれば今しかない。 「いや、気持ちは解る。俺もちょっと、えっ、てなった、色々違反してるし、会社の内実も見えてくるよな。でもさ、そういう風土も含めて、俺達が変えていくべきなんじゃないのか?」  ……俺達が変える。  僕は彼の言葉を少し、頭の中でしゃぶる。  そして理解した。  ――どうやらこいつは、そっち方面でも面倒な奴だったらしい。  たぶん、何か妙な万能感と共に勘違い(はなは)だしいやる気に満ちた、暑苦しい奴だ。  改めて、面倒な輩に捕まってしまったのだと、自分の不幸を呪わざるを得ない。
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