変化する、血を添えて

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「たぶん、お前は真面目なんだよな。ルールに反していることが許せないんだ」  たぶん勝手に勘違いしている。  僕はただ、単純に面倒臭かっただけだ。 「そして旧態依然とした社風と、それに黙って付き従う先輩社員や、圧政を強いているであろう経営陣に対し、腹を立てたんだ」  いや、ブラック企業なのではないかと思って、嫌になっていただけだ。 「にも関わらず、入社前の自分にはまだ何も変えられない。そんな歯痒さが顕現したのが、午前のお前だ。違うか?」  違う。早く帰りたかっただけで。 「俺はお前みたいな熱情を秘めた同士を待っていたんだ。俺とお前で、この会社も、この世の中も、全部変えていこうぜ。なぁ、兄弟」  変えるも何も、結局は生まれが良い人間や才能を持って生まれた人間は得をするし、そうでない人間はより多くの努力をせねばならないと僕は思っている。人の世の仕組みがそうなっている以上、つまりは色々と諦めて旧態依然とした社会を黙って見送るしかない気もしているだけだ。 「変えなきゃならないことは、変えるべきだ。それは誰かが変えるんじゃない。自分が変えるんだ 」  実に暑苦しい。  何処をどう否定しようかと考えていたが、なんだかもう話を早く終わらせたかったので、否定するのも億劫になってきた。 「あぁ…… 何かもうそれでいいよ。よろしくね、お兄ちゃん」  その後、僕のそっけない態度などお構い無しに、午後の部が始まるまで彼の熱い話は続き、何故か最後には無理矢理な熱い抱擁を求めてきた。
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