変化する、血を添えて

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 午後も研修だった。  座学。  会社の歴史や創業者の名や、現役員連中の顔と名前をつらつらと覚えさせられていた。  あまりに退屈であったため、午後の研修の間、なんだか僕は少し、彼の言葉を思い返してしまう。  ――誰かが変えるのではなく、自分で変える。  彼はそう言っていた。  彼の暑苦しさから離れ、少し冷静になって考えれば、至極真っ当な事を言っている気がする。  ……確かに彼は鬱陶しいが、間違ってはいない。  時計の針がゆっくりと進む中、僕はそう思うようになってきた。  ――むしろ、ただただ嫌気に任せて()ねていた僕が、子供過ぎるだけではないだろうか。  彼は暑苦しくはあるが、真面目に、真っ直ぐに自分の想いを表現しようとしていた気がする。  違うと思ったことを、行動して変えようとしていた。  それに対し、僕はどうなのか。  ただただ諦め、拗ねて、全てを他責にして放り投げているだけなのではないか。  どちらが正しく、立派なのだろう。  生まれや才能なんていう逃げ道を自分の中に用意して、ただ単純に言い訳をすることに酔っているだけなんじゃないだろうか。  斜めから覗き見ることの出来る自分が、格好良いと思っているだけなのではないか。  なんだか僕は恥ずかしくなってきた。  僕が世の中やこの会社を変えるとは言わないまでも、すぐに何かを諦めるのではなく、その中で出来ることを最大限、気持ちの良い方向へ進んでみることが大切なのではないか。  誰かが変えるのを待つのではなく、自分で変える努力をすることも、時には必要なのではないか。  研修が終わるまで自問自答を繰り返し、僕は少しだけ、そう思えるようになっていた。  研修後、僕は彼を呼び止める。  少し恥ずかしかったが、素直に彼に心情を告げ、そして2ヶ月後の再開を約束し、僕は兄と力強く握手を交わし、その日を終えた。  彼は決して血の繋がった兄弟ではない。でも、暑苦しくも真っ直ぐな義兄弟が出来たことには、不思議と悪い気はしなくなっていた。
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