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不安に駆られた僕は、配属先に赴く前に人事部の偉い人を捕まえ、尋ねる。
すると偉い人は返してきた。
「あぁ、彼は生き別れの弟が見つかったとかで、その弟さんが結構な会社の社長さんの養子になってるだかで、そっちに入社することになったんだってさ」
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僕は少し考える。
「弟さんが会社の跡継ぎらしいから、彼も良いポジションに収まるらしいよ」
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考え、理解する。
――部外者のプライバシーをこんなにも簡単に吐露するこの会社は、やはりロクな会社ではない。
そしてやはり思う。
――なんだったんだ、あいつ。
想いも契りも、血の繋がりや金と地位の前では簡単に無に帰した。
血に支配され世襲に狂う旧態依然としたこの世の中は、やはり変えねばならないと、僕は思う。
――そういえば、この会社の創業者の名字も、今の社長と同じだった気がする。
無給の研修も役に立つ。
会社は僕に必要な情報を与えてくれていた。
僕の怒りの矛先を定めるには充分な情報だ。
変えるのは誰かではなく、僕なのだから。
〈了〉
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