ら れべでれ

2/6

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
※※※  覆面男は一息つくと、スケッチブックを閉じて私の目の前までくると、手を伸ばしてきた。私はとっさに身がまえた。すると覆面男は縄をするすると解いた。私にメロンパンと水のペットボトルを渡すと、覆面男は出ていった。ひとまず元の時間に戻ったような気がした。それなのに、私はこのタイルのひび割れた部屋に閉じこめられたままだった。私は扉まで歩くと縄の跡が残る手でドアノブをひねって何度も押した。何かがつっかえて扉は開かなかった。しょうがなく私はマットレスに戻ろうと、したところだった。何かの声がする。それは実際に聞こえるものではなく、私自身に語りかけるようなものだった。小さいながらもはっきりと、それは私を呼んでいた。私はそれが何なのか気づくことをしなかった。いや隠した。隠しながら私は声のする方へ、ゆっくりと目を動かした。案の定、薄花色の表紙を装った、あのスケッチブックだった。私の中では、そのちょうちょ結びを解いてペラペラとめくって見てみたいという願望が湧きつつも、一方でそれを目にしたら何かが終わってしまうような、知ってはいけないような悪寒が止まらなかった。しかし私がそのスケッチブックに手を伸ばすのには時間はかからなかった。私はついにこの手でつかんでしまったのだ。もう後には戻れない。いや来てしまった以上、戻ることなどしない。ひょっとしたらあの覆面男のことが少しでもわかるかもしれない。どうしてこうなってしまっているのか、私はとても長い間考えていた。最初、この手のことの目的として典型的なお金を中心に考えてみた。しかし、誰がボロアパートの娘なんかを狙うだろうかと。そして次に考えたのは、この体が目的なのではないのかと思ったが、私は美貌の持ち主ではないし、覆面男にその気はないらしく、推理は迷宮入りと化していた。それがなんとちょうちょ結びを解くだけでわかってしまうかもしれない。そう思えばこれから降りかかる恐怖など、私は恐ろしくもなかった。するすると、私はちょうちょを解き、はらりと表紙をめくった。美しい絵だった。光る髪、透き通った肌、今にもかすんで消えてしまいそうな瞳。とても鉛筆1本で描いたとは思えない、明暗の色彩があった。しかし私がそれを集合体として見た途端、気持ちの悪い絵と化した。それらは窓から肘をついてどこか眺めていたり、またはベンチに座っていたりと1つとして同じポーズはなかったが、めくってもめくってもどこをどう見ても私しかいなかった。まるで鏡と鏡の間に立ち、反射しては反射した複数の私とにらめっこしているような、そんな感覚もあった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加