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「…喋れたのか。」
覆面男は驚きを隠せないようだった。
「まあ。」
私はいたって普通を装った。
「君の声は初めて聞いた。いつも車から見ていたものだから。」
そういえば先生から不審な車がうろついているのを私は聞いたような気がする。
「まさかあの君が、僕なんかに、話しかけてくれる日が来るだなんて思ってもいなかった。ああなんてことだろう…。」
覆面男が震えだしたので、私はひとまずペットボトルの近くに手を潜ませた。
「歩くのもおぼつかない街で、君を1目見てから君を描きたくてしょうがなくて、最初は想像で描いていたんだ。だけど僕はそんな器用じゃない。すぐに限界がきてしまった。だから君を探したよ。それは途方もなかった。見つけた時はもう天にも昇るような心地だった。それからというものの、僕は遠くから君を描いていた。ただそれだけで初めは満足だったのに、それなのに、僕の気持ちは止まってくれなかった。だんだんと君のこんなポーズが描きたい、君の目に見つめられながら描いていたいと欲を出し始めた。そしたらこの有様よ、ああなんて気持ちが悪いんだろうね。あっはっはっはっはっ…」
私は今世紀最大と言ってもいいほどのとてつもない寒気に襲われていた。凍えながらも、私の中には一筋の光が見え出していた。
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