#2 赤いソファの前が指定席

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#2 赤いソファの前が指定席

 借りて来たDVDは、三本だった。  今はネットで何でも観られるけど、ショップに行って、何百もの映像が俺を観ろとひそやかなる圧を殺して陳列されている中を闊歩する、あの独特な高揚感。  店員さんのやたら個人的な感情がだだ漏れているPOPを読んだり、ジャケの面と裏を何度もひっくり返して、あらすじやら出演者、表紙を眺めながらその作品が与えてくれるかも知れないエモーショナルを妄想する。  そういうの、結構好きだ。  一本目、シリーズ物のスプラッター・ホラーの5作目。登場人物がこれでもかと痛点をざわつかさせる文字通り痛い目にいちいち遭うので、梗介と一緒じゃないと観られない。  二本目、俺達の好きなアーティストが主題や挿入歌で使われている、古い邦楽の青春映画。  そして三本目。これは俺のチョイスだ。  恋愛コーナーの最下段の右端の方で、思いがけず見つけた。  これがいい。何故かお笑いコーナーを腕組んでガンつけしていた梗介に見せたら、(下の方見てたから、今は大物芸人の昔のシュールなコントとかが気になったんじゃないかな……)いいって眼で言ってくれたので、浮かれ気分でレジに向かった。  この時から梗介の機嫌は結構良かった。次の日が休みだったからかな。  夜で人通りもないから、手繋いで帰った。  梗介の左手からマルボロの煙が夜空に昇って霞んでいく。思えば空には既に重たい湿気がはらんでいた。  それでも俺も楽しかった。週末の夜、梗介と手繋いで、観るのを楽しみにしている映画を三本も抱えて帰る我が家なんて、楽しい以外の何物でもない。  合格を貰った昼食(ランチ)を平和に食べて、DVDを観る事にした。  観るのはこれがいい。俺チョイスの恋愛映画。  始めから、こんな優しい雨に(くる)まれて世界に二人きり、みたいな日にはこれが観たいとしか思えなかった。  梗介も嫌だと言わなかったし、もしかして、ちょっとは俺と同じような気持ちだったとか?  判らないけど、赤いソファの前へ敷かれたクッションの群れに座ったので、俺もすとんとその中へ腰を降ろした。梗介の、脚のなか。  俺と梗介は二人でじっくりテレビを観る時は、大体この体勢になる。  ソファの前に梗介が座って、俺がその前に梗介を座椅子みたいにして座る。  ソファを使ってもいいんだけど、ソファに座って各々好きなように寛いでいるうちに、最終的にこの形態(かたち)に落ち着くことが多い。  俺が背中を預けると、梗介の腕が肘かけみたいに当たり前に俺の上半身へ回り込んでくる。梗介の顎が、こつんと俺の頭に乗っかって来ることもある。  俺も梗介の首とか肩に頭乗せられるし、梗介の匂いと体温、ぎゅって染みるよう感じられて凄く安心するし、たまに梗介も、本当にぎゅっとかしてくれると、あはは、まあうん。なかなかときめくので、俺はこの体勢でテレビ観るの、かなり好き。    折角俺が選んだソファなのに、使用用途がなされておらず、赤いソファ、たまにこうやって後ろでじりじり怒ってる。ごめん。  怒っているソファを尻目に、恋愛映画を観るには早くもムードは上々だ。逃さないように、リモコンの再生ボタンを押した。
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