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#5 キス・I
赤いソファの上で、梗介の脚の上で抱っこされながら、見つめ合う。
赤いソファ、不穏な気持ち再浮上。このくそがき二人、また本来の使用用途、無視するつもりだ。
梗介の切れ長で綺麗な眼がほそめられて、すっと顔がまた近づいてくるから、あって思った。
今度は、多分そうだ。ひそやかな緊張、期待とでどっちが大きいか判らないまま、応えてまつ毛を伏せる。
梗介の唇が、じわ、と柔らかさと熱、疼くようなもどかしさを連れて、伝わって来る。唇に。
そのまま少し、唇を開ける。お互いの柔らかさ、感じたくてなぞり合う。
唇と唇の形を辿り合う。おかしい。同じ容なのに、どうしてか交わらない。
交わりたくて、ひとつになりたくて啄む。
キスって、くっついてるのに何故かひとつになれない、切なくてくるしい、あまい探検。
そうやって、俺達はさっきの映画みたいに、触れ合うだけの、小鳥同士が啄むようなキスを、繰り返ししていた。
たまに舌も、ちょん、するんて絡むんだけど、少し撫でた程度で、またすぐ唇だけに戻る、くすぐるような甘いキス。
舌を絡めて希め合う、濃厚なキスも勿論好きだけど、俺はこういう、唇と唇だけでふれ合うキスも、好きかもしれない。
じれじれと、お互いの胸にそっと閉まっている欲望を、隠してるようで突っついているような、もどかしい、初々しくも見えるのにどこからかエロティックさも滲んでしまう、罪なキス。
そしてやっぱりこのキスも、——間違いなく気持ちいい。
小さな水音を漏らして、俺達はようやく唇を放した。
いつも冷えて研ぎ澄まされたような梗介の眼が、少し紅みを帯びてほどけている気がする。
「梗介……」
「……」
「梗介。キス、気持ちいい……」
「……ん」
「ねえ梗介」
「……あ?」
「梗介とのキスは、何でこんなに、気持ちがいいんだろうね……?」
「さあ」
さあじゃないだろって、笑って梗介の胸を叩こうとしたら、ぎゅっと抱きしめられて、俺の拳は二人の胸の間でぺしゃんと潰された。
「当然だろ」
腰にくる、相変わらず悦いド低音が、耳のなかから脳天に鋭い稲妻を放つ。
「もっかいして」
稲妻に撃ち抜かれて酔った俺は、梗介の背中に腕をまわし、呟かずにはいられなかった。
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