1999年、春①

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   「いやぁ、にわかには信じ難いですな。1999年7月に人類は滅亡するとは」 ワイドショーのコメンテーターが連日“ノストラダムスの大予言”について語っている。 どの番組も同じようなコメント、特番ばかりだ。 1973年に出版された本はバカ売れ、まさに日本中が恐怖に包まれていた…らしい。 もちろん俺は生まれていないし、これから先も信じることはないだろう。 あとたった三ヶ月ほどで人類が滅亡?冗談じゃない! 俺は春から新生活が始まるんだ。誰にも邪魔はさせないぞ。 おっと、電話だ。携帯など高くてとても買えない俺は実家からぶんどって……貰った子機を手に取る。ホワイトのボディだ。ちょっと前に流行った、たまごっちも確か白が一番人気で品薄だったな。クラスの女子に見せびらかす為に男子共が行列に並んで奮闘していたっけ。 まあそんなことはどうだっていい。母さんの声だ。 《映時?どう?そっちの様子は》 「どう、って別に高校から少し離れた地区に引っ越しただけだし、そんなに変わった様子はないよ。明後日から学校行くぐらいだし」 《ごめんねぇ、父さんの転勤の都合であんただけ一人残して。父さん最後に会いたがってたわよ?見送りに来なかったのあんただけよ?》 「わかってるよ。頃合いを見計らって父さんには連絡するからさ。 今テレビ見てるんだ、ほら最近やたら特番やってるだろ?アレ」 毎週見ている好きなアニメが野球中継で潰れ、結局ノストラダムスの大予言関連の番組を見てしまっている。母さんが住む北海道では違う番組が放送されているらしい。 《面白いわぁ水曜どうでしょう。大泉洋ちゃんが可愛くてねぇ》 「(そういえばクラスの同級生の姉ちゃんが北海道に嫁いでいの一番にハマった番組が水曜どうでしょうって言ってたな…。) もう切るぞ、明日は買い出しに行くんだ。さすがにダンボールのテーブルの耐久性に限界が……うわあっ⁉」 ドタドタドターッと崩れ落ちた簡易的に作ったダンボールのテーブル。電話の向こうの母さんが呆れた様子で電話を切る。貧乏学生にテーブルは高い買い物なんだぞ。 「ま、いいか…なんか作るか。確か卵が3個残ってたな」 あんかけ和風かに玉を手際よく作り始める。缶をほぐして軟骨を取るのもお手のものだ。ご飯にかけて腹を満たす。うーむ美味い。 いくらでも作れるがもっと上手くなりたい。そのために俺は明後日から調理師専門学校への門を叩くんだ。 薔薇色のキャンパスライフとはならなかったが夢の実現の為に一歩踏み出すことができるんだ。 待ってろよ。 プロの料理人・遠野映時(とうのえいじ)になってやるーー
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