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ドンッドンッ!!
絶えず玄関の扉を叩く音。うるさいハエが…と呟く大志。
遠子は怯えながらも鎖を外す鍵の在り処を探す。
大志のスカジャンの左ポケット。ポケットに手を伸ばす方法はないのか。
(遠野くん……。)
地下室内に暖房はなく、ひんやりとした空気に包まれている。遠子は息を呑む。
空間に負けてしまいそうだ。祈るように助けを待つ“かよわき乙女”だと同級生等に罵倒された過去が蘇る。
「…うるさいハエは叩かなければな。」
遠子の頭を触り、人差し指で遠子の胸の谷間をなぞる。
「…い、いや……っ」
重い地下室の扉を開け、大志はうるさいハエを叩き落としに行く。その背中に父の面影はなかった。
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