最後に笑うのはあたしのはず

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 ある日、長美は仕事を終えて帰宅すると玄関に見慣れない革靴があることに気がついた。居間では両親と樹璃と見慣れない男がテーブルを挟んで向き合っているのだ。長美は居間に入り樹璃に尋ねた。 「ただいま。あれ? そちらの方は?」 樹璃の隣に座る男であるが、眉目秀麗で聡明そうな顔つきをしており、背が高く線が細いながらに筋肉質で逞しかった。美しい姉と一緒に歩いていても釣り合う青年である。 青年はスッと立ち上がり、長美に向かって深々と一礼をした。 「妹さんですね。私は樹璃さんとは結婚を前提にお付き合いの方をさせて頂いている赤芽睦応(あかめ むつお)と申します」 これまで樹璃は数多の男と交際をしてきた。しかし、家にまで連れてきて両親に紹介するまで親密になる相手はこれが初めて。ついにお姉ちゃんも年貢の納め時が来たか。あたしとしては嫌いなお姉ちゃんが家から出ていってくれるなら万々歳だ。長美は樹璃を祝福するのであった。 「ああ、お姉ちゃんの…… 始めまして、妹の長美と申します。いつも姉がお世話になってます。あたしお邪魔でしたね。もう、お姉ちゃんったら、彼氏来るって言ってくれれば外で時間潰してきたのに」 樹璃はバツの悪そうな顔をしながらペロリと舌を出した。このあざとい表情一つだけでも何人もの男を陥落(おと)してきた「可愛い」顔である。長美はその顔を見る度に「殺気」を覚えるのであった。 「仕方ないでしょ? 睦応さんったら、パイロットでお忙しいのよ?」 睦応は国内大手航空会社のパイロットである。パイロット、それも大手航空会社のものともなれば心技体全てを兼ね備えたエリート中のエリートと呼ぶに相応しい男である。 お姉ちゃんぐらいに綺麗ならこんな凄い人ともお付き合いすることも出来るのか。あたしみたいな普通の女には無縁な話だ。長美は睦応に向かってニッコリと微笑んだ。 「それじゃあ、ごゆっくり」
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