最後に笑うのはあたしのはず

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 睦応の帰宅後、長美は一人風呂に入り今日一日の仕事の疲れを癒やしていた。長美の職業は地方公務員で、担当は市役所の受付。今日も横柄な来客の受付を何人も行い、疲れに疲れ切っていた。湯船に深く尻を滑らせ、だらぁりと体を伸ばし、湯と一体化するかのように全身を浸していた。 すると、そこに闖入者が現れた。 「長美ちゃーん? 入るよー?」 樹璃が浴室に入ってきた。一糸まとわぬ樹璃の姿はまさに女神の顕現。細身ながらに丸みを帯びた肉付きの良さは中世や近世の絵画の女神がそのまま抜け出たかのように美しく感じられるものだった。この家の浴室に鍵はない、樹璃が長美の入浴中に突入してくることは日常茶飯事である。 長美は心の中で舌打ちを放った後、足を曲げて湯船の中に樹璃が入るスペースを作り上げた。樹璃は軽くかけ湯をし、そのスペースにゆっくりと腰を下ろした。長美は女神が顕現したかのような樹璃の裸体と、自分のちんちくりんな裸体を見比べるだけで「本当に同じ親から生まれ、同じ血が流れる体なのだろうか?」と劣等感に苛まれるようなことを考えてしまう。  長美は以前、母親に冗談半分で「あたし達のどちらかは橋の下から拾ってきたか、産婦人科で取り違えられたんじゃないの?」と聞いたところ「あなた達は正真正銘の双子の姉妹よ!」と烈火の如く怒られてしまった。 恥ずかしい話ではあるが、母親は結婚して間もなくに参加した同窓会にて学生時代に憧れた同級生と過ちを犯してしまった。それを知った父親は大激怒、樹璃と長美はその同級生との間の子の可能性があるためにDNA鑑定が行われた。結果は、二人共父親とは血縁関係アリ。同級生との過ちは関係がないとのことだった。 樹璃はこの話を聞いた時には母親を軽蔑しつつも、父親と長美との間に血の繋がりがあると証明されて心から喜んだ。 長美はこの話を聞いた時には母親を軽蔑しながら、父親との血の繋がりがあることを喜び、樹璃との血の繋がりがあると証明されて心から落胆した。落胆と言うよりは父と母より血と肉と骨を分け与えられし身であるのにどうしてこうまでも違う姿形に生まれてしまったのだろうかと、神を恨む気持ちに近いのかもしれない。
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